52. 鳴らす準備はできているか?
- u
- 5月6日
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更新日:5月8日

Schlagfertigkeit は、ドイツ語で「機知」や「当意即妙」を意味する。機転が利くこと。とりわけ、口が達者で、状況に応じて瞬時に適切なことば選びができたり、不利な場面でも、ユーモアや頭の回転のはやさでその場の空気を変えたりする能力のことだ。
schlagen には、殴る、打撃を加える、(バットやラケットなどで)ボールを打つ、打楽器を叩くなどの意味がある。
fertig は、終えた、完了したという状態を表す語で、言葉のうしろに付けると、なにかをする準備が整ったという意味になる。例えば、 gebrauchsfertig(すぐに使用可能な)、dienstfertig(お客をもてなす準備ができた)など。
fertig と似た使い方をする言葉に、英語でいう ready に近い、bereit がある。hilfsbereit(人を手伝う準備のできた=協力的・親身な)、reisebereit(すぐに出発できる)など、簡単な単語の組み合わせで言いたいことに手が届くのが心地よい。
schlagfertig antworten(当意即妙に応答する) といえば、難しい話題や問いかけにも、機知に富んだ返しをすることを意味する。
かつては、戦の際に武器を携え、いつ敵襲に遭っても迎え撃てるようにしていたことが、現在ではピッチャーを前にバットを構え、ヒットやホームランを狙うこと、ひいては、オーケストラの舞台で、太鼓ばちを手に出番を待っている状況さえ連想できるものになった。
機知、機を知ること。そう考えてみると、機転が利くとは、素早く適切に問題に対応できる閃きの才能というよりも、じっと好機を待ち、その内側で、状況を迎え入れる準備を整えていることなのではないだろうか。Schlagfertigkeit を知ってから、そう思うようになった。
臨機応変に物事を捌ける能力という意味で、Durchlässigkeit という表現もある。
Durchlässigkeit(スルーネス・浸透性)は馬術用語で、馬に抵抗がなく、騎手のナビゲーションが馬の全身へと滞りなく伝わり、わずかな指示にも俊敏に反応できる状態を表すそうだ。
一瞬の動きが勝敗を左右する。その手綱捌きで指揮をとるには、馬が騎手の声を聴くことができる体勢であるべきで、騎手自身にも準備が必要だ。そのためには、馬と人とが時間をともにし、ふれあい、心を通わせることが欠かせないだろう。
そこから転じて、時間的制約のもとで、山積みのやるべきこと、途方もない数の選択肢を前に、今はこれをやる、次はこれを…という風に、判断し、実行していくことの采配力・滞りなさを比喩的に表せると知った。
一日が始まり、仕事にとりかかるとき、体は、心は、その準備ができているだろうか?
友人と出かける、食事に行く、話をする、その準備が?
流れ続ける日々の中で、準備なんてできていないことばかりだけれど、立ち止まってなにかを待つことは、多くのことを教えてくれる。
風に季節を感じ、この瞬間の空の色を味わう。ティーポットの中で茶葉が広がり、踊るのをじっと見る。
そういう名前のない瞬間が、身体を待ち、体勢を整えるための一助になることもある。
学び続けること、歩くことは、私にとって未知の世界、あらたなことばと出会う準備を整える時間なのかもしれない。
それは、逆説的に私を lernbereit(学ぶ準備のできた=学習意欲のある)状態にし、また次の場所へと心が向かっていくのを待つ時間を育んでくれる。
2025.05.06 u
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