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51. 時を刻む音。

  • u
  • 4月11日
  • 読了時間: 3分

更新日:5月6日






ドイツ語を知っていくうちに、日本語にはない動詞に出会うことがある。



たとえば、ticken という動詞は、時計の針が時を刻むこと、またその音を表す。ティッケンという発音にも、親しみ深い「チクタク」と似た響きがある。


eine tickende Zeitbombe (時を刻む時限爆弾) のように、進行形で形容詞的に用いると、ちいさく、けれどたしかに刻一刻と迫りくる爆発の緊張感が、音とともに表される。



このティッケンにはいくつかの派生的な意味がある。"Wie ticken Jugendliche 2024?" (2024年に若者は何をおもうのか) のように、アンケートの表題として用いられている例もある。



最近見たインタビュー動画の中では、"(前略) wie man so tickt, in der Jugend (青春時代にひとは何に突き動かされているのか)" という発言があった。


この文脈では、英語の What makes someone tick? のように、その人の原動力、核となる価値観、そのように振る舞う背景には何があるのか、などについて問う意味合いが強くなるようだ。



どのように時を刻み、何が影響して今に至ったのか。何に心を動かされ、どう振る舞ったのか。この ticken というひとつの言葉が、幾重にも倍音を伴って響いているように感じた。




なにをしてきたか、どんな考えをもっていたか、どんな体験をしたか、どう過ごしたか。これらのどれにも当てはまるようでいて、どれとも違う点を指している。能動的に選んだものだけではなく、止まることのない時間の流れには、良し悪しじゃないすべてが含まれている、そんな印象を受けた。




この、一単語では翻訳できない派生的な意味は、人の中にも時計のような機関があり、生を刻んでいるという考え方に由来するという説がある。



以前「46. あなたの今日の波。( https://x.gd/yBHNt )」で紹介した、¿Qué onda? (どんな波?→調子はどう?)と近いものを感じる。偏見や前提を極力含まずに相手に関心を寄せられる、絶妙な距離感が好ましい。



加えて、言葉本来の意味から、身体よりもっと内側の奥深くにあるはずのなにか、魂の問題について問いかけているような一面が見え隠れする。それでいて、日常会話で気楽に受け答えできる余地がある。





体内時計、バイオリズム。それらの言葉は知っていても、このように含みのある、けれど確かな一点を突く表現があることは知らなかった。



動詞のもつ、文章の中での閃きと射程範囲の広さ、イメージを展開させる力。ドイツ語にふれているとき、このことをひときわ印象的に感じる。




私の、

あなたの、

道に咲く薄青いちいさな花の、

飛んでいく鳥たちの、

川床から運ばれてきた小石の、

私が生まれるずっと前からこの世界をうつしてきたカメラの、

この古びた一冊の本の、針の音。





あなたの時計は、どんな音がしますか?


どんなはやさで、時を刻んでいますか?



あなたの中に、止まったままの時計がありますか?




だれかの生と自分の生が、束の間重なる。


そういうふれあいが、とても心地いいと感じるときがある。











2025.04.11  u  






 
 
 

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