49. 流れ弾のように生きる。
- u
- 2月14日
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更新日:2月21日

信念を強くもつ者は、"反抗的" と形容されることがある。
何に対して反抗的なのか。その対象は、体制や、権力や、マジョリティルールかもしれない。言うことをきかない人が反抗的なのか、反抗的であることは間違っているのかどうかは、判断する人がどこに居場所を求めるかによって変わる。
権力に対して蜂起することを、英語で "uprising" という。内から湧き上がるもの。蘇生や回生という意味を背骨にもつ言葉だ。
何気なく用いたこの「蜂起」という言葉も、蜂が群れを成し、羽音を響かせて巣から飛び立つように、力に対して行動を起こすことを意味する。
蜂起というと、フランス語の coup d'État(クーデター)が連想される。
État には幅広い意味があり、この表現での「国家」をはじめ、状態・身分・容態などを表す。coup は、打撃・一撃と訳され、coup de vent(突風)や coup de foudre(稲妻・ひとめぼれ)などの例をみても、瞬間的な威力のある言葉だと思う。
coup de cœur は、文字通りの "心の一撃" や精神的ショックのことではなく、心がときめくもの、とっておきのお気に入り、特に、一目見て心を奪われるような魅力的なものという意味がある。
クーデターという単語は、私にとって、新聞や報道や歴史書の中にある言葉だったけれど、同じ苗字をもつ親戚のような言葉を見ていくうちに、立体的で、ナマの感じを覚え始める。ここからようやく、自分の文章に織り交ぜたり、別の言葉と組み合わせたりできるようになっていく。
untamed beard は、英語で無精ひげのことだ。wild beard という一般的な語よりも、 少し詩的で風味豊かな表現らしい。
この untamed には、自然の状態にあり、tame(手懐け)られていない、という意味がある。untamed animals は野生の動物のことで、人と暮らすために調教されておらず、ありのままの状態で生きている生物を表す。
tame とは、飼いならすこと。懐柔し、籠絡すること。
似た表現に、domesticate という言葉がある。同じ起源をもつ domestic(国内の・家庭内の) という言葉のほうがよく知られているだろう。domesticate は、家化すること、つまり、本来自然のなかで暮らす生き物を、人や人の社会で生きられるよう矯正することを意味する。
こうしてみていくうちに、放っておくと顔の上で日ごとに濃くなっていく無精ひげが、法を逃れ、取り除かれず、だれにも何も押し付けられずに生きている健気な生き物のように思えてくる。
ドイツ語で、"反抗的な人" を意味する、Querschläger(流れ弾・跳ね返り弾) という言葉があるのを思い出す。
拳銃から放たれた弾は、狙撃手の隙を見て照準に向かう軌道を逃れ、定められた運命から脱出する。
Querkopf(つむじ曲がりな人)という言葉があるように、quer(横向きの・横切った) という言葉自体に、傾いた・曲がった・ナナメの・あるべき位置ではない・変わっている、などのニュアンスがある。
「流れ弾」を日本語に翻訳するなら、不良という表現がしっくりくる。
自分の中の不良の部分を大切にしている人を、私は信じている。
正常化の力を逃れ、ひっそりと生き延びた、ありのままの野生。
だれかが、その伸び放題の草地を手入れすべきだと言うかもしれない。
けれどその姿は、どんなに見た目を整えられた花園よりもうつくしい、と私は思う。
2025.02.14 u
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