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45. 漂泊する色。

  • u
  • 2024年10月26日
  • 読了時間: 3分

更新日:3月25日






Color Migration という単語を目にしたとき、血が騒ぐのを感じた。



Migration という言葉からは、"Immigration (他国への移住)" や "Emigration (自国からの移住)" といった、人の移動を連想する。


migrate はあるものが別の場所へ移ること。渡り鳥や旅鳥の越冬、渡り。感染した細胞が転移したり、コンピューターのシステムを別の場所に移したりすることも表す。




"Color Migration" は、洋服の色移りのことだ。


色の濃い洋服が、薄い洋服を染めること。


"color may migrate (色移りするかもしれない)" という表現が、なぜかとても強く心に残った。picture in my mind という慣用句のように、心の中で、像が描かれてゆく。


色の逃亡、旅をする色。もと居た場所をすりぬけて、あたらしい居場所を見つける色の物語。



そんな光景が、たったふたつの言葉の組み合わせによって立ち上る。




秋は、紅葉の季節でもある。「紅葉する」という現象も、言語によって様々な表し方がある。


英語では、"The leaves turn red (葉が赤くなる)" "The leaves change color (葉が色を変える)" などを耳にすることがよくある。


ドイツ語では、


Die Blätter verfärben sich. (葉が色づく)


Am See sind die Herbstfarben angekommen. (湖岸に秋の色が到来)


Das Moor legt sein Herbstkleid an. (湿地は秋の装い→沼地の木々が紅葉している)

 

といった、詩的で比喩的な表現を目にすることもある。

 

 

Das Herbstkleid や Das Winterkleid は、秋服・冬服という意味で、同時に、動物の秋毛・冬毛を表す。鳥が冬羽をはためかせている様を、「冬服を着ているね」と同じ文章で言い表せることにことばの妙を感じる。

 

 

上にある1つ目の文の "sich verfärben" は再帰動詞で、die Farbe (色・色彩) が含まれている通り、木々の紅葉から動物の毛色、洋服の色移り、人の顔色の変化 (特に怒り) に至るまで、幅広い色の変化を意味する。

 

 

Die Blätter haben sich schon leuchtend rot verfärbt. (葉はすっかり鮮やかな赤色だ) というときの "leuchtend (鮮やかな)" という言葉は、leuchten (灯る) という言葉から成っている。

 

 

星のまたたき、蝋燭の灯火。英語で shine と訳されることもあるけれど、個人的には両者には決定的な感覚の違いがある。

 

 

shining red は、艶と光沢があり、光り輝くというニュアンスが私の中にはある。木漏れ日の隙間から目に飛び込んでくる、つややかな色。

 

leuchtend rot には、ぽっ………と灯る静けさ、静けさゆえの求心力のようなものを感じる。薄灰色の空、透明な湖面、モノトーンな風景に滲む木々の赤。そういう印象が、私の胸を打つ。

 

 

 

 

回り続ける洗濯機の中で、擦れ合い、もみくちゃにされる衣類の隙間をぬって、ひっそりと脱出を試みる色たちのことを思うと、私も心の中でなら、彼らのようにさすらうことができるかもしれないと思う。

 

 



 

 

2024.10.26  u  

 
 
 

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